「見ないで! 撮らないで! もうやめてッ! ゆるしッ…て……ううっ…」
人前で無理矢理「その瞬間」を迎えさせられたシグは、せめて記録に残すのはやめてくれと訴えたが、それが聞き入れられるはずも無く、カメラはそんなシグの姿さえ、あらゆる角度から撮り続けていた。
打ちひしがれ、抱えあげている男達の腕の中で泣きじゃくるシグの表情は、見る者の征服欲を満たすのに充分なものであった。
肛門の周囲に残った汚物を拭われベッドへと戻されたシグの腕に、ちくりと小さな痛みが走った。
どくんと心臓が大きく跳ねたかと思うと、全身がかっと熱くなった。
先程までモニタの前で屈みこんでいた所長が、手にしていた小さな注射器をワゴンに放り出すと、記録用紙を片手にいそいそと黒ずくめの男の隣に並んだ。
「廃棄処分の決まったガラクタにはもったいないが、他に試せるサンプルもいないんでな」
「廃棄…処分?」
「おや? あの若造から何も聞いてないのか?」
廃棄の言葉にショックを隠せないシグに、意地の悪い笑みを浮かべた所長は、研究員達に行為の続行を命じた。
「薬を使うとは聞いておりませんでしたが?」
「予定より早く試薬が出来上がったのでな。みやげは多いほうが良かろう? ほれ、効いてきた」
新しい玩具を自慢するような所長の声に促され、ベッドに目を向けた男は思わず眉をひそめた。
排泄を強制され、追い討ちをかけるように廃棄処分だと告げられ呆然としていたシグが、嬉々として自分から男達を迎え入れていた。
研究員の一人に馬乗りに跨って腰を揺らしながら、順番待ちの男達が差し出すペニスに、口と手で奉仕するその表情は恍惚とし、視線は宙を泳いでいた。
「即効性はかなりのものですが、持続時間はどのくらいなんです?」
「そんなものありゃせんよ。SEXマニアの『レプリカ』をつくりたいんじゃろ?」
「では、一度使ったら元には戻らないわけですか」
「戻す必要があるのかね?」
黒ずくめの男の顔から仮面のように張り付いていた笑顔が消えた。
「サンプルはいただけるんでしょうね?」
「おお! 今はコイツに使ったのとココに1本あるだけじゃが、レシピは完成しとる」
差し出されたアンプルを受け取った男は、中身をそっと注射器に移した。
「レシピはどこに?」
「ん? そんなもの後でもいいじゃろう。ワシ専用の端末の中じゃ。ココには持ってきておらん」
試薬の効果が満足のいく出来だったのか、シグの反応に気をとられている所長は、男の声音が変化した事に気付いていなかった。
真っ赤に充血したシグのペニスは、すでに何度か射精をしたにもかかわらず、びくびくとその身を震わせながら張りつめたままだった。
平均的な性欲しか持ち合わせていない研究員達は、シグの性技に翻弄され始めていた。
最初にシグに乗られた男は、挿入したまま立て続けに達かされ、失神寸前であった。
その有様に、順番を待っていた男たちも尻込みし始める。
薬の予想以上の効果に、所長は子供のようにはしゃぎ、部下達をけしかける。
「素晴らしい! これなら何人でも相手に出来るぞ!」
「馬鹿が。客より絶倫な『レプリカ』を作ってどうする」
「なんじゃと! ?……あ?」
所長の首筋に注射器が刺さっていた。
「貴…様…。ワシに何を…うっ!?」
心臓への強い衝撃と急激な体温の上昇に、所長の目が驚愕に彩られた。
「お前も、廃棄処分なんだよ」
「その…声…」
男の正体に気付き、愕然として床に座り込んだ所長の目の前に、男は黒髪のカツラと顔を覆っていた人工皮膚を引き剥がし放り投げた。はめていた手袋を投げ捨て、カラーコンタクトを外す。
「お前の頼みの綱の営業部長は俺がお気に召したらしい。ヒト相手にしか勃たない奴の相手はうんざりしたが、おかげで流れたデータの回収は済んだ。後はお前とサンプルを消せば、俺のココでの任務は終わりだ」
「コウ…ヒジリ…」
「安心しろ。あの世に行けば、営業部長が腰振り回して待ってるだろうぜ」
コウは革靴の先で勃ち上がり始めた所長の股間を擦り上げながら冷たく言い放った。
「うひゃっ! やめ、やめろ! やめてくれ! あッあッ」
「自信作なんだろう? たっぷり味わってから逝けよ」
だらしなく仰向けに転がった所長の股間をぐにぐにと踏みつけ、その顔に唾を吐きかける。
「アひッ !イ、いイ…もっと…モっと…ア…アアアッ!!」
自ら靴裏に股間を押し付けるように腰を上下に激しくバウンドさせ身悶える所長の姿は、ただひたすらに醜悪であった。同じ薬を使ったというのに、淫魔の如きたたずまいで妖艶な笑みを浮かべ、腰をくねらし続けるシグとは雲泥の差である。
「改良すれば精力剤にでもなるかと思ったが…」
ヒトに使うもんじゃないなと呟いたコウは、所長の股間を思い切り蹴り飛ばしくるりと背を向けた。
踏み潰されたカエルの様な声を上げてもんどりうった所長は、それでも股間をまさぐっていた。
下半身を剥き出しにしたまま呆然と事の成り行きを見守っていた研究員達が、コウの無言の圧力を受け慌てて逃げ出そうとする。
行く手を遮ったのは、武装した兵士達であった。
ズボンを抱え、尻を丸出しにしたままという間の抜けた姿で、彼らは手械を嵌められ、連行されていった。
指揮を任されているらしい若者が、シグを抱き上げたコウを敬礼で迎えた。
「あの男は…」
ちらちらと所長の痴態を目の端に留めながら、コウの指示を仰ぐ。
「放っておけ。この基地と一緒に砂漠に埋めておく。予定に変更は?」
「ありません」
「では、奴らを連れてお前たちは全員本部に帰投しろ。後の扱いは本部の指示に従え。以上だ」
「了解しました。あの、サンプルの方は…」
くすくすと笑いながらコウの首に両腕を絡め、首筋に舌を這わせるシグに目を向けた若者は、うっかりシグと視線を合わせてしまい赤面して顔を背けた。
「新薬のテスト中だ。結果が出次第処分する。見ていくか?」
「いっいえ!」
「ならば行け」
若者は引きつった顔のまま再度敬礼をすると、訓練された機敏な動きで部屋を後にした。
「すぐ、楽にしてやるからな…」
キスをねだるシグを頬擦りでかわしたコウは、その耳元にそっと囁いた。
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