股間に全裸の『レプリカ』の少年を張り付かせ、サカキは事態の不条理さに頭を抱えていた。
拒むつもりだったのだ。断固として。
サカキには年端も行かぬ少年をSEXの対象にする趣味はなかった。
もちろん他人のSEXを眺めて愉しむような趣味も。
ふざけるなと怒鳴って踵を返す事ができたなら良かった。
だが、話があるからと言ってコウを連れ出したのは自分であり、連れ出しておきながら場所のセッティングをコウに任せてしまったのも自分だった。
まずはこちらの話を終えてから、後は勝手にやってくれと言えば良かったのだと気付いた時には、少年の手が、サカキのシャツのボタンを外し終えていた。
病的なほどに白い肌と、振り払う事をためらわせるような、細く華奢な手足。
少年が蠱惑的な笑みを浮かべ、奉仕に励めば励むほど、サカキの気分は萎えていく――
……はずであった。
少年の舌使いは、あどけない容姿から予想されるたどたどしさとは程遠く、巧みだった。
根元を緩やかにしごきかれながら唇と舌とで丹念に舐め上げられ、瞬く間に硬度を増してゆくサカキのペニスの大きさに、奉仕に慣れているはずの少年も息を呑んだ。
「……ちょっとした凶器だな」
自分はシャツの前をはだけただけで、申し訳程度に少年の尻を撫でていたコウが、思わずといった様子で覗き込んで呟いた。
憮然としているサカキ本人には目もくれず、少年の細い腰とペニスを見比べて眉をひそめた。
「お前の体格じゃ、厳しいだろう、これは」
「そ、そんなことは……」
「まぁ、試してみるか」
「あ……の? ……ああっ!?」
「力、抜いとけよ」
いつの間に用意していたのか、コウは手の平にたっぷりのオイルを塗りつけ人肌に馴染ませると、少年の尻のすぼまりに指の腹を押し当てた。
円を描くように襞を伸ばし、少しずつ奥へと指先を侵入させる。
「んっ…あ……はっ……」
行為に慣れた少年の身体はすぐに反応し、甘い吐息と共に最初の精を吐き出すまでにそう長くはかからなかった。吐精し脱力している隙をつき、中に入り込む指が増やされた。
「上手いもんだな……」
コウの指先の動きに翻弄され、少年はすでに喘ぐ事しかできなくなっていた。
今何を言っても、おそらく少年の耳には届かないだろう。
「何が言いたい?」
「いつも、そうやるのか? その……」
「お前のサイズに合わせるために、手間暇かけてやってるんだが?」
少年の尻にはすでに3本の指が収められていた。
「悪かったな」
「……シグなら、ここまでやらなくても大丈夫だろうがな」
「そうなのか!?」
コウがシグの名を出した途端、サカキの顔色が変わった。
「そうなのかって……。お前、普段どうやって――」
至極もっともなコウの問いに、サカキはぐっと喉をつまらせ俯いた。
「あいつが、自分で……。けど、こんな風にはならんから」
そう言いながら少年の頬をそっと撫でる。
サカキの大きくて無骨な手の平の感触に、少年はうっとりと酔いしれたような表情を見せた。
「そりゃ、こいつはこう見えてもプロだしな。これを要求するのは酷じゃないか?」
「そんなのは判ってる。ただあいつは何にでも一所懸命なヤツだから」
「手伝ってやればいいだろう。まぁ、眺めてる方が気分が乗るってんなら何も言わんが」
「加減が判らん。あいつの前にもそれで何体か取り替えてる」
確かにコウの記憶にあるサカキは、その図体にふさわしく大雑把な性格ではあったが、
手先は器用な男だったはずだ。愛用の銃器の手入れなど、呆れるほどに丁寧だったように思う。
と同時に、大して興味のない通信端末の機器などの扱いは目も当てられないほど粗雑だった事を思い出したコウは、これまでサカキに仕えたという『レプリカ』達に同情した。
砂漠の基地にいた“ シグ ”は、サカキのお気に入りの『レプリカ』だった。
本人に自覚は無かったのだろうが、その執着ぶりは愛情と呼んで差し支えないほど強かった。
記憶は消されても、個人的な趣味や嗜好まで変えられたわけではないだろう。
シグという対象に関する記憶が無くなっても抱いた想いまではなくならない。
与えられたのがシグではなかったから、合わなかったのだ。
誰が何のために取り計らったのかは知らないが、今サカキと行動を共にしているシグは、当時の記録を元に再生産された、復刻版とみて間違いはないだろう。
「あいつは、壊したくないんだよ」
その意見にはコウも同感だった。もっとも意味合いは違っていたが。
コウは、サカキの言葉には答えず、少年の尻から指を引き抜いた。
先程から会話の邪魔にならぬようにと必死で声を殺していた少年の目じりには、薄っすらと涙が浮かんでいる。
「イイコだ。余計な気を遣わせたな」
オイルのついていないほうの手で髪を撫でてやると、小さくふるふると首を振った。
「もう大丈夫だろう。ほら、ご褒美を貰ってこい」
少年の身体をそっと抱き起こし、サカキの方へ向ける。
「ご褒美って……」
「お前は動くな。こいつが自分で挿れるから、じっとしてろ」
「お、おう」
反射的に返事をしてしまい、しまったと思ったときには、少年の肌が目の前にせまっていた。
どういうわけか、コウに命令されると無条件に従ってしまう自分が居る。
何故だと考える暇も無く、サカキの意識は己の下半身にもっていかれた。
「んっ……!」
「だ、大丈夫なのか? ゆ、ゆっくりな?」
座位の姿勢でサカキに腰を支えられた少年が、自分の両手で尻を開きながらサカキのペニスの先端を迎え入れる。
「は……い……あっ!」
「す、すまんっ!」
予想以上に熱く、オイルでぬめった内壁が纏いつく感触に、サカキのペニスはどくんと脈打ち硬度を増した。あわてて引き抜いてやろうとするが、少年は逆らうように体重をのせ、半ばまで呑み込んだ。
「す、ごい……」
「う、わっ……くぅ」
少年のわずかな身震いが、締め付けとなってサカキを翻弄する。
いくら『レプリカ』とはいえ、陰毛すら生えていないような年頃の外見の相手の尻を穿つ行為には、どうしても罪悪感が拭えない。なのに身体は快感だと訴える。
もう勘弁してくれと突き飛ばしたい衝動をこらえ、根元まで導いてやると、少年がもたれかかってきた。額に浮かんだ脂汗が、受け入れるだけで精一杯だと告げている。
コウに言われずとも、動く気にはなれなかった。
大柄な体躯に似合いのサイズの性器は、女性相手でさえ難儀することもあるのだ。
こんな、片腕ですっぽり包めてしまいそうな細い身体では、根元まで挿入が果たせただけで賞賛に値する。
自分に跨る少年がヒトだったなら、なんとしても拒んでいただろう。
けれど相手は『レプリカ』なのだ。軍事目的で生み出されたシグやグリンとは違い、民間で、ヒトの快楽に応える事のみを目的としてつくられた性人形。
この少年を拒むという事は、彼の存在そのものを否定するに等しい。
道具として生まれた彼らにとって、使われる事こそ至上の喜びであり幸福であった。
彼を抱き、快楽に溺れ、満足して果ててやることが、何よりの褒美になるのだ。
サカキは己の中に渦巻く嫌悪感や罪悪感を腹の底に呑み込み、少年の背をそっと抱き寄せた。
「具合はどうだ?」
「はい……! すごい、です。大きくて、熱くて……あん」
少年の耳たぶを甘噛みし、囁きを落とす。
「そりゃ良かったな。俺も、こんなに具合がいいのは久しぶりだ」
「うれしいです。あまり、気乗りしてらっしゃらなかったようでしたから」
「あんまり細っこいんで、無理だと思ってたんだ。けど……たいしたもんだ」
自分のセリフに吐き気さえ覚えながら、サカキは少年の尻をまさぐった。
少年はサカキの言葉と愛撫を素直に受け止め、瞳を潤ませ甘い吐息を漏らした。
「あ……ご主人、さま……」
細い腕がサカキの首に絡み、白い喉が仰のく。
首筋に吸い付き、小さな胸の突起を指の腹でこね回せば、細い腰が震え締め付けが強くなる。
コウによって充分に解されていたそこは、挿入直後こそサカキの質量に圧倒されていたようだが、徐々に圧迫感にも馴染んできたのだろう、ねだるような動きが加わり始めた。
緩急すらつきはじめた締め付けのリズムと、耳元で絶えず漏れるか細い喘ぎ声。
思う存分突き上げたい衝動をこらえ、サカキは少年が昇り詰めるのを待った。
「あ……の、もう、大丈夫、ですから……」
動いても大丈夫だと言いたいのだろう。
「そんなにさっさと終わらせたいのか?」
「ちっ違います! その……つまらない、でしょう?」
「そうか?」
「あっ!?……ああッ!!」
乳首を弄り回していた指先がつつ、と下がりペニスの先端を弾く。
未成熟な性器はサカキの手の平にすっぽりと収まってしまうほどであったが、それでも先端からは液を滴らせ、精一杯の自己主張をしてみせた。
「ナリは小っさくても、態度は一人前だな」
先端の皮を引き下げ剥き出しになった亀頭を指の腹でぐりぐりとこする。
「あっ、あっ、やぁっ!」
のけぞりずり上がる腰を引き戻す事でゆるやかなピストン運動を繰り返し、サカキは無理矢理自分自身を昂ぶらせていった。これで、少年が射精する瞬間の断続的な強い締め付けが加われば、どうにか果てる事ができるだろう。
少しでもサカキを悦ばせようと身をよじる少年の姿に、ふと、シグの面影がよぎった。
シグにここまでさせたことも、してやったこともない。
奥まで迎え入れる事ができず苦痛で涙ぐむシグを、もういいからと突き放してからどれくらい経ったのだろう。
今なら、もう少しましな言葉をかけてやれるかもしれない。
言葉だけでなく、抱き寄せて、キスをして、壊さぬようにゆっくりと身体を馴染ませて。
「――っは……」
シグの裸体を思い浮かべただけで、かっと身体が熱くなった。
少年の射精を待たずに、サカキは精を吐き出していた。
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