咎狗の血シリーズ
「うぁっ……ッ」
反射的に枕に顔を埋め、うつ伏せのまま身体を丸めた。
自然と源泉の前に尻を差し出す格好になる。
「サービス満点だな」
「ッ! 違っ……んぁあっ!?」
振り返り抗議の声を上げる間もなく腰を掴まれ、一気に奥まで貫かれた。
「うっ……あっ、んはっ、はっ、ぁあっ、あっ、あっ、んんっ!」
「……いい声だ。……たまらんなぁ……」
衝撃に身体を支えるのに精一杯で、口元を抑えることもできない。
源泉の声に羞恥を煽られ、全身がかっと熱くなる。
もういい、このまま爆ぜてしまおうと目を閉じた時、源泉の手がそれを堰き止めた。
「一緒がいいなら、もう少し、堪えてくれ、な?」
宥めるような声と共に根元をきつく握られた。
「……ッ……」
――― 一緒がいいなら ―――
アキラは小さく頷くと、熱を逃がすように大きく息を吐いた。
汗ばんだ肌のぶつかり合う音が、繰り返されるピストン運動の淫らさを強調する。
解放寸前で阻まれた欲望は、深く衝き上げられるたびに濃縮されていくようで、それはやがてねっとりと纏いつくような快感に変わり、アキラの自我を覆いつくしていった。
シーツを固く握り締めていた拳がほどけ、反り返っていた背がくたりと沈むと、腰のこわばりが緩み、源泉の動きに沿う様に揺れ始めた。
薄く開いたままのアキラの唇の端からこぼれた唾液が、光る糸となってシーツに伝う。
閉じた瞼の周囲は朱に染まり、汗ばんだ額には、乱れた前髪が張り付いていた。
「アキラ…………。溺れそうだ……」
独り言のような呟きだったが、アキラの耳には届いたらしい。
突っ伏していた上半身を持ち上げ、す、と片手を差し伸べてきた。
「アキラ……?」
意味が判らないまま、その手をとった。
きゅ、と握り返される。
「いいの、か?」
もう一度、強く握り返された時には顔はそっぽを向いていた。
乱れた髪の隙間からのぞく耳は、上気した肌よりもさらに真っ赤になっていた。
源泉はその手の甲に恭しくキスを落とすとそっとシーツの上に戻し、四つん這いになっているアキラの背に伸し掛かるようにして腰を使い始めた。
「あっ……はッ、あ、あ、んぁッ、あっ、」
「いいぞ、アキラ。……最高だ……」
ベッドの軋む音が一段と激しさを増した。
根元を締めていた源泉の手が緩み、アキラをそそのかし始める。
行き場を探して身体中を駆け巡っていた快感が、出口を目指して一気に駆け抜けた。
「ッふ! うあ! あっ! あっ! ――――ッッ!!」
目の奥が真っ白になって弾けるような感覚に、意識を持っていかれそうになる。
「くッ!」
腰を掴む強い力と体内にばら撒かれた熱い迸りが、かろうじてアキラの意識を繋ぎとめた。
崩れるように突っ伏したアキラの背に、汗ばんだ肌がずしりと重なる。
押しつぶさないようにとの配慮は感じるが、余韻に浸るには少々息苦しかった。
「オッサン……重い」
「ん」
のろのろと繋がりを解いた源泉は、アキラの隣にだらしなく寝転がった。
目を閉じて満足そうに深い息を吐く源泉の横顔を、アキラはぼんやりと見つめていた。
視線に気付いた源泉の顔がこちらを向いた。
目が合うと、ふわりと微笑んで腕をのばしてくる。
アキラは頭を持ち上げ、おとなしく腕枕におさまった。
素直だの可愛いだのと揶揄われるかとも思ったが、源泉はアキラの頭を抱き寄せて髪を撫でるだけだった。昼間はあれほど気に入らなかった仕草なのに、今は心地良く感じている自分が不思議だった。
髪を撫でていた手が肩に回り、より近くへと招かれる。
アキラは源泉の胸に顔を埋めるように、自分から身体を横に向けてみた。
源泉の手の動きが一瞬止まる。
冷やかしの言葉を覚悟して、アキラはぎゅっと目を閉じた。
「アキラ?」
源泉もまた、身体を横に向け直しているのがわかったが、目を開けることは出来なかった。
頬が勝手に熱くなってゆく。
らしくないことをしたと後悔したが、源泉は何も言わず、抱きしめてくれた。
「苦しくないか?」
気遣うような優しい声音が、アキラをほっとさせる。
黙って頷くと、また髪を撫でられた。
源泉の足先が起用に毛布を手繰り寄せ、抱き合ったまま毛布にくるまった。
直に触れる毛布の肌触りが心地よく身体に馴染み、規則正しい源泉の鼓動が眠気を誘う。
「少し休んだら、シャワー行こうな」
「アンタに、任せる。……眠…い」
「そーかオイチャンに任せてくれるのか、って……え?」
余韻のまどろみを吹き飛ばすような一言を吐いたアキラは、源泉の動揺を知らぬまま、深い眠りに落ちていた。