咎狗の血シリーズ
明かりが消えただけだというのに、部屋の温度が冷えた気がする。
アキラは背筋に寒気を感じ、ぶる と身を震わせた。
カーテン越しの街の灯りは窓の形をぼんやりと浮き上がらせる程度で、かえって室内の暗さを強調するだけだった。
「寒いのか?」
アキラが答えを返す前に、抱き寄せる源泉の腕に力が篭る。
真摯な響きの低い声に、アキラの胸がどきりと跳ねた。
「……大丈夫だ」
いつものように後ろから抱きかかえられているだけなのに、緊張で声が震えた。
「そうか。……なら……いいか?」
尋ねる声はどこまでも真面目で、本気だった。
もう悪ふざけはしないから抱かせてくれと言われた。
久しぶりの逢瀬に舞い上がり過ぎていたと謝られた。
そうして静かに抱きしめられて、アキラは一言うんと答えた。
今またいいかと尋ねる源泉に、アキラは小さくうんと頷いた。
ベッドサイドのライトが小さく灯る。
顔だけ見せてくれな? と耳元で囁かれ、熱い火照りが身体に戻った。
源泉の両の掌が胸と腹を揉むようにしながら撫でまわす。
首筋を這う舌の感触に背筋が震えた。
「っふ……あっ……ん」
「アキラ……」
1週間の予定の取材が10日に延びた。
出発前も慌しくてかれこれ半月近くはSEX抜きで過ごしていたのだ。
行為に慣れてきたとはいえ、期間が開きすぎた。
丁寧に解してやらなければ、傷つけてしまう。
自分を抑えてアキラの身体を馴らすには、悪ふざけでもして気を逸らすしかなかった。
とはいえ緊縛プレイというのはやり過ぎだったと自分でも思う。
アキラの言葉が素っ気無いのはいつものことだ。
淋しかったと素直に甘えてくれるはずがないのも判っている。
それならせめて、身体だけでも素直に感じて欲しかった。
待ち焦がれていたのだと、あっさり果てて欲しかった。
なのにその手を拒むから、ムキになって追い詰めた。
焦がれていたのは、自分の方だった。
背中に触れる胸板を通して、早鐘のように脈打つ鼓動が伝わってくる。
ふいに源泉の顔が見たくなった。
軽く身体を捩り顔を後ろに向けると、当たり前のように顎を持たれ唇を塞がれた。
唇が触れ合う直前にちらりと見えたその顔は、あまり余裕があるようには見えなかった。
「……っは、ん……んはぁっ……あ、んんっ……」
「ん……はっ……んむっ……んっ……」
キスの合間の吐息が荒い。
尻にあたる源泉のペニスの熱を感じて、アキラはようやく安堵した。
あのまま、縛られたままで、犯されるように抱かれるのでも構わなかった。
遊びで出かけていたわけではないのだ。
無事の帰宅を喜びこそすれ、遅くなった事を責めるつもりなど無い。
共に連れて行くには力不足だから置いていかれるのだと判っている。
置いていかれて淋しいなどと、源泉を困らせるような事を言うつもりは無かった。
なのに詫びるような優しい手つきで煽るから、情けなくて涙が零れた。
自分が昇り詰めるより、源泉に感じて欲しかった。
置いていくんじゃなかったと、後悔させるくらいの自分でいたいから。
本当は、早くひとつになりたいだけだった。
捩る身体に沿わせるように、放り出したままの脚が引き寄せられた。横抱きにしっかりと抱え込まれたアキラは、尻の下に源泉のペニスのぬめりを感じて腰を揺らした。
びくりと一瞬身を竦ませた源泉の手が、そろそろと下りてくる。
アキラはそっと脚を開いてその手を招き寄せた。