咎狗の血シリーズ
絶頂に達し、快感の波は通り過ぎたというのに、乱れた呼吸がなかなか鎮まらない。
咳き込みながら崩れ落ちたアキラの背を、源泉の掌がゆっくりと撫でた。
少しずつ深く穏やかになる呼吸に合わせて繋がりを解くと、力尽きたようにアキラの隣に突っ伏した。
「…………まいった……」
引き寄せた枕に顔を埋めたまま呟く源泉をアキラは不思議そうに見つめた。
ちらちらと目だけは何度もこちらを向くくせに、一向に顔をあげようとしない。
「オッサン……?」
耳が赤い……ような気がする。
確かめようと手を伸ばし、髪をかき上げた。
赤いのは、耳だけではなかった。
「……顔、赤い」
「……判ってる」
「なんでだ?」
「………………訊くのか?」
アキラの無言の圧力に耐え切れなくなった源泉は、しぶしぶ口を割った。
「あんまり良すぎて、夢中になっちまった」
「ッ!?」
「タイミングを合わせようとか、久しぶりなんだから優しくしようとか、そういうのが全部ふっとんじまって……もう、ひたすら気持ち良くってなぁ。お前さんの中にぶちまけてイク事しか考えてなかった」
開き直ったのか、幸せそうな笑みを浮かべて白状する源泉に、アキラは文句をつける気にならなかった。いつもならどうしようもなく恥ずかしい気持ちにさせられるはずの言葉がたまらなく嬉しいのは、源泉が心底満足しているのが感じられるからだろう。
中途半端な照れ隠しや揶揄い半分ではないのが、声の調子で判る。
機嫌を伺うように瞳をじっと覗き込まれ、胸の奥がむず痒くなった。
堪えきれずに身体を起こす。
「アキラ?」
声に不安そうな響きがあるのが可笑しい。
ふいに込み上げた笑いを堪えていると、真っ赤な顔で源泉が飛び起きた。
「なにも笑うこたぁねぇだろうが……」
「笑ってた? 俺が?」
「と・ぼ・け・る・な」
源泉の人差し指がつんとアキラの頬をつつく。
「俺より先にイったのがそんなに悔しいのか?」
「そうじゃない。そういう事じゃなくてだなぁ。……あーくそっ!」
「うわっ!」
ばりばりと頭を掻いた源泉は、アキラの胸に顔を埋めるように抱きついた。
「……みっともないだろうが。いい年したオッサンが、SEXを覚えたての小僧みたいに、がむしゃらに腰振るだけでイっちまうってのは……」
ぼそぼそと言い訳をする顔は、悔しいというより、恥ずかしいのだと告げていた。
「……俺は、……うれしかった」
「え?」
「アンタが、俺に夢中になってくれて……」
「ア、キラ……」
「俺だって、アンタが……俺で感じてくれてるか、確かめたい」
さほどSEXに積極的とは思えないアキラからの直球の告白に、源泉の心臓が跳ね上がる。顔を上げる事ができずにますます強く抱きつくと、アキラも源泉の背に手を回してきた。
手持ち無沙汰なのか、指先が源泉の後ろ髪を弄っている。
普段は素っ気ないくせに、時々妙に素直に構ってくれる。
源泉は自分が犬か猫にでもなったような気分で、アキラに髪を弄られていた。
「オッサン?」
「もう少し、甘えさせてくれ」
アキラの胸に頬擦りをして縋りつく。
ふざけるなと逃げ出すかと思ったが、アキラは軽い溜息をついただけだった。
源泉がいつもアキラにするように、ぽんぽんと軽く背中を叩き、髪を撫でる。
ぎこちない掌の動きが、嬉しくて、愛しい。
アキラが再び源泉を呼んだとき、聞こえてきたのは穏やかな寝息だった。