霊感探偵倶楽部・姉崎探偵事務所シリーズ
闇に果つる瞬間(とき)
「……っ………んんっ………はぁっ…はっ………くぅっ!」
両腕で己の裸体を抱きしめ うずくまる少年がいた。
小刻みにふるえる白い肌に陵辱の痕はない。
だが、床に残る白い液体が、彼の身体を快楽が通り抜けた事をはっきりと物語っていた。
板張りの床にすがる少年の肌を照らすのは一対の蝋燭(ろうそく)の炎のみ。
(こんな修行だなんて、聞いてない……)
◆◆◆
陰陽にたずさわる者にとって大切な修行だと言われていた。
いつもより念入りに"みそぎ"をするように、とも。
支度を整え 道場に足を踏み入れた途端、意識が途切れた。
気付いた時には衣服はすべてはぎ取られ 床に横たえられていたのだ。
自分の身に何が起きたのか、これから何が行われるのか。
考えるより前に"それ"は始まった。
覚えのない匂いのする薄靄(うすもや)がたちこめ、闇の奥から低い声がなにごとか唱えはじめた。
薄靄は少年の身体にまといつくと肌に染み込むように消えてゆき、声は耳ではなく脳に直接響いてくるかのようだった。
(この匂いって……お香? それに……真言ってヤツ、かな…?)
脳に届く声の主に覚えがあった少年は緊張を緩め、辺りの様子を窺おうとして身じろぎした瞬間、身体の芯に衝撃を受けた。
「ああっ!?」
真言とおぼしき低音の旋律がさざ波のように押し寄せ、理性の壁を侵食してゆく。じわじわと染み込む薄靄が、まといつく甘い芳香が、肉体の強ばりを解きほぐし感覚を鋭敏にしてゆく。
官能の疼きが全身に広がり血流が一点に向かい始めた。
火照った肌は薄紅色に染まり、熱を帯びて勃ち上がった少年の分身はすでに
歓喜の涙をしたたらせている。性交はおろか自慰の経験すら乏しい少年にとって、絶頂への誘いを拒むことなど出来るはずもなかった。
◆◆◆
自らの手で欲望を吐き出し 羞恥にふるえる少年の肩を闇から伸びた白い手がつかむ。
「まだ終わりではありません。これからが本当の修行ですよ。
吉川君、今度はもう少し長く こらえて下さい」
「鴻さん……こんなコト……これが修行なんですか?」
「そうです。溝口さんからは何も?」
鴻は問いかけを口にしながらも吉川の身体を仰向けに寝かせ、両膝を大きく左右に開かせた。
「き、聞いてません! 大事な修行だってコトしか俺っ……。
で、でも こんなのって……」
抗う事を知らない少年は、羞恥に頬を染めながらなす術もなく鴻の眼前に秘部をさらしていた。
「……そうですか。何も話しませんでしたか……」
吉川の年齢を考えれば当然の事かもしれない。
中途半端な知識を与えるよりも、直接身体に教え込む方が効率がいい。
「それでは、始めますよ」
唐突に宣言した鴻は己の髪を一本引き抜くと、吉川の返事を待たずにそれを彼の分身に巻き付けながら半ば皮に埋もれたままの先端をつい、となめた。
「っ! ……ヤ、ヤダ! 鴻さん、やめ……」
初めての刺激に快感よりも恐怖を感じた吉川は身をよじって逃れようとするのだが、根元をつかまれていては、どうしようもなかった。
「恐がることはありません。声を出しても構いませんから力を抜いて、じっとしていてください」
白い指がゆっくりと上下に動きはじめると、先程の余韻の残った肉体はすぐに反応しはじめた。吉川の脳裏に数分前の快感が甦る。
鴻は左手で欲望の芯をしごきながら 右の手の平で二つの袋をやんわりと握り、もみしだく。
「すぐに、よくなりますから……」
芯の固さが増す毎に、皮に埋もれていた先端が徐々に姿を現しはじめた。剥き出しになった薄紅色の先端に親指の腹をあてがい、ゆるゆると円を描くように刺激する。と瞬く間に透明の液体が溢れだし、蝋燭の炎をうけて光の糸となる。同時に右手の人指し指で袋の下の秘所への小径を撫であげてやると、吉川の腰がピクン、と跳ねた。
「あぁっ……」
強すぎる快感に一気に全身が嵩ぶった吉川は、こらえきれずに声をあげた。
鴻の髪に出口を阻まれた欲望の波は行き場を求めて逆流し、吉川の最後の理性を快楽の渦に引きずり込んでいった。
まだなんの刺激も与えていない胸の突起が、待ちきれないとばかりに赤味を帯びて立ち上がる。鴻は 絶頂を求めて涙を流している芯から手を離すと、吉川の上半身を抱き起こし、身体をずらして横向きに自分の膝に座らせた。
すでに全身の力は抜けている。
後ろに倒れこまないように抱き寄せながら胸の突起をつまみあげ、首筋をなぞるように舌を這わせる。
「は…ぁぁ〜〜」
吐き出す息に歓喜の声が交じり、鴻の愛撫に身をくねらせる吉川の表情には
もはや羞恥のかけらも残っていなかった。戒めがなければとうに絶頂に達しているはずの肉体は、最期の瞬間を求めてわなないていた。
「吉川君、つらいですか?」
鴻の呼びかけにも荒い息遣いがもれるだけで言葉は出ない。
(そろそろ、いいようですね)
鴻は闇の奥に向かって声をかけた。
「溝口さん。仕上げをお願いします」