九龍妖魔學園紀シリーズ
帰宅するなりバスルームで軽く“小腹”を満たした皆守は、半べそをかいてへたり込む九龍を尻目にさっさと身体を洗い終え、愛用の部屋着に着替えてリビングで寛いでいた。
帰りの電車内での悪戯が過ぎて途中下車した駅構内のトイレで1回。そして今。
駅のトイレでは手で、バスルームでは口で、皆守は九龍を達かせていた。
家に帰ってからの本番に備えた軽い前戯のつもりだったが、感じ易い九龍の身体は皆守の予想以上に昂ぶってしまい、出してしまわない事には身動きも取れない状態になってしまったのであった。
暴発寸前で飛び込んだ駅のトイレの個室の中で痴漢だ変態だとさんざん罵った九龍であったが、その身体は皆守の手を振り払う余裕など無くなっていた。
予期せぬハプニングのせいで途中下車する羽目になった二人は、降りたのが最寄り駅の2つ手前だったということもあり、そのまま歩いてマンションまで戻ってきたのである。
皆守としてはバスルームでの奉仕は詫びのつもりもあったのだが、それが九龍に伝わったかは定かではない。
ぶらぶらとじゃれ合いながら歩いてきたせいで、時刻はとうに0時を回っていた。
皆守から数分遅れてバスルームから出てきた九龍がこそこそと寝室へ入っていく気配を背後に感じたが、そこは見て見ぬ振りをしてやった。2度も一方的に達かせてしまった手前、インターバルを置いてやろうと思っての事だった。
とはいえ、自身の昂ぶりを抑え続けるのにも限界がある。
部屋に乗り込むタイミングを見計らっていると、皆守の携帯が高らかに鳴り響いた。
―――『甲ちゃん誕生日おめでとう。プレゼントがあるから部屋に来て』―――
九龍からのメールだった。
「なんでわざわざ……。声かけりゃいいのに」
口では面倒くさそうに言いながらも、いそいそと寝室のドアをノックする。
返事を待たずにドアを開け、入り込んだ室内は灯りが消えていた。
「九ちゃん?」
皆守が声を掛けるとベッドの上で小さな灯りが点った。
同時に馴染み深い香りが鼻腔をくすぐっていく。
頭から毛布をすっぽりかぶり、顔だけを覗かせた九龍が手にしていたのはアロマキャンドルだった。毛布の下は、おそらく全裸なのだろう。
皆守は至極冷静にベッドの脇まで歩み寄り、九龍を見下ろした。
よく見れば、ご丁寧に首に真っ赤なリボンまで巻いている。
「……甲ちゃん?」
無言でずかずかとベッドに上がり込む皆守に、九龍が不安気な瞳を向ける。
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどな。」
九龍の手からキャンドルを取り上げ、サイドテーブルに置く。
そのまま備え付けの引き出しからクリームの入ったチューブを取り出すと、指の腹に中身を出した。
「こ、甲ちゃ……ん?」
毛布の端を思いきりよく引き上げ九龍を転がした皆守は、むき出しになった九龍の尻に手を伸ばす。
「ここはやはり、ツッコミが必要だろう」
言うが早いか白い双丘を割り開き、クリームをのせた指を入り口に押し当て塗りこめる。
「ちょッ……それ違う! 突っ込み違い!」
皆守の「ツッコミ」から逃れようと身を捩る九龍であったが、毛布が絡まり思うように動けない。振り上げる足を難なくかわした皆守は、指先をさらに奥へと進めて九龍の動きを奪う。受け入れる事に慣れている九龍のそこは、本人の意思に反して皆守の指を嬉々として招き入れた。
「やッ! ……甲ちゃ……待っ……はぅっっ……」
前立腺を擦られ九龍の声が裏返る。
いつもならこれで大人しくなる九龍であったが、押し寄せる快感に必死で抗い言葉を繋いだ。
「待って! ……お願いだから、待って!」
「いきなりは嫌か? じゃぁ上から順番にな」
あっさりと指を引き抜いた皆守は、九龍に巻きついている毛布をはがし始めた。
あまりにベタな演出で普段なら引いてしまうところであったが、理性の残量がエンプティゾーンに突入している今の皆守にとっては、絶好の起爆剤であった。
露わになった九龍の肌にキャンドルの灯りがゆらめく。
ごくりと喉を鳴らした皆守は、自分の服に手をかけた。
と、九龍のしなやかな腕がすっと伸び、それを留める。
「俺に……やらせて?」
「九ちゃん?」
促されるままに腕を上げ、九龍にシャツを脱がされる。
流れの中で脱いでいくのと違い、面と向かって脱がされるというのは、かなり気恥ずかしい。
「……下もか?」
「うんっ!」
皆守は黙って軽く腰を持ち上げ、九龍に協力した。
皆守を裸にし終わった九龍は、唇にそっと触れるだけのキスをした。
そのまま首筋や胸元にもついばむようなキスを落とす。
「”御奉仕”がプレゼントってわけか? 九ちゃんが俺を達かせてくれるって?」
「だ、駄目かな? ……こういうのって、甲ちゃん嬉しくない?」
「嬉しくないことは無いが……。俺がイクまで九ちゃん堪えきれるのか?」
皆守の指摘に九龍は口ごもる。
敏感すぎる九龍の身体は、あまり快感を堪える事が出来ない。
毎度毎度先に達かされては”もう終わっちまったのかよ”と言われてしまうのだ。
もっとも皆守はそれを狙って執拗な愛撫を繰り返しているのだが。
「こ、甲ちゃんが触らなければ……頑張れると……」
「俺にマグロになってろってか? 断固拒否」
「ええっ! だ、だってそれじゃ……」
「止めとけよ」
「は?」
皆守は自分の顔をずいと九龍に近付けると至近距離でにやりと笑った。
九龍の瞳を見つめたままで、首に巻かれたリボンをほどく。
皆守の意図を察した九龍の瞳が大きく見開かれた。
「と、止めるってまさか……」
「縛っといてやるよ。俺がイクまで」
「嘘ッ!!」
九龍の抗議を無視した皆守は、あっさりと九龍を押し倒し69の体勢に持ち込んだ。
「ハンデってことで先に始めてていいぞ」
「先にって何ッ! ……そッ……んぷ!」
九龍の顔に押し当てられた皆守の分身は、本人と違い至って素直に熱く自己主張していた。
当初の予定と大きく違ってしまった展開に詰めの甘さを悔やんだ九龍であったが、いつもより遥かに熱い手のひらを内股に感じ、皆守を喜ばせると言う目的は果たしているのだからと自分自身に言い聞かせると、皆守の分身に舌を這わせた。
いきなり咥え込むことはせず、裏側の筋に沿って舌全体でゆっくりと舐める。
歯を立てないように唇で側面を軽く噛み袋を指先で転がすと、皆守が息を詰めた。
してやったりと思う間もなく、自分の分身の根元がきゅっと締められ、同時に生暖かい粘膜に全体が包まれた。
びくびくと浮き上がりそうになる腰を押さえつけられたまま、先端をくるくると舐めまわされる。幅広のリボンのおかげで食い込むような痛みは感じないが、丁寧に巻きつけられたであろうと思われるきっちりとした圧迫感が、確実に絶頂を堰き止めていた。
「……ッは……んむッ……んんッ……」
広げられた両脚が踏ん張りきれずにシーツを滑る。
先ほど皆守に塗り込められたクリームが溶け出し、縁の辺りがむず痒い。
閉じ込めようと締めかけた入り口に皆守の指が滑り込んできた。
「あぅッ!」
思わず仰のき声を上げる九龍の股間で、皆守がくすりと笑った。
「どうした、九ちゃん? 俺はまだイってないぜ?」
差し込んだ指をぐるりと回しさらに奥へと進めながら意地悪く告げる。
「きっちり止めてあるから安心して御奉仕してくれていいんだぜ?」
九龍の上に跨っていた皆守が、結び目が見えるように身体を横に外す。
荒くなった呼吸を整えながら反射的にそこを見た九龍は、一瞬それが自分のモノだとは思えなかった。
「なッ……何コレ〜〜〜〜ッッ!!」
真っ赤なリボンが、袋の中央でクロスし根元にぴっちりと巻きつけられている。その縛り方もマニアックではあるが、九龍が驚愕したのはその結び目が、見事な蝶結びになっていた事であった。
慌てて起き上がり、改めて自分の股間を覗き込む。
「ちょ……蝶々結びって……信じらんない……」
「可愛いだろ?」
「……甲ちゃんの変態……」
「なんか言ったか?」
両手でシーツを握り締め、項垂れていた九龍が、敢然と顔を上げ叫んだ。
「甲ちゃんの馬鹿ッ! そこ座って! 足開いてじっとしてて!!」
「おいおい九ちゃん……」
「……次に俺に触ったら、亀甲縛りで転がして後ろ犯すよ?」
「……俺が悪かった」
達かせてもらえないもどかしさと苛立ちもあるのだろう。
九龍の瞳はケダモノじみた光を放ちながらかすかに涙ぐんでいた。
ついに観念した皆守は、九龍に言われた通りヘッドレストに背中を預け足を開いた。
膝立ちでにじり寄ってきた九龍の手が皆守の頬をそっと包む。
「そんなに俺にされるの……嫌?」
「九ちゃん……?」
「ホントに嫌なら、もう、やめる。俺、いっつも気持ちよくしてもらってばっかりだから今日ぐらいって……」
いつも見下ろしていた九龍の顔を見上げているというのは、不思議な気分だった。
乱れそうになる息をこらえて震える唇に視線が吸い寄せられる。
抱きしめて思う存分むさぼりたい衝動をこらえて、皆守は九龍の胸元に顔を埋めた。
九龍の腕が皆守の頭をそっと抱きしめる。
「……しても……いい?」
皆守は九龍の腕の中で黙って頷いた。
九龍の唇が髪に触れた。
顔をあげると額に、頬に、キスの雨が降り注ぐ。
「んッ」
深く合わされた唇が離れた時には、皆守の息もあがっていた。
首筋に降りた舌は、鎖骨の窪みを辿り、両の手のひらと共に胸の突起へと熱を移す。
閉じ込められた快感に揺れる九龍の白い尻が皆守の目眩を誘う。
触れるなと釘を刺された手が空を掴んでは落ちる。
「……はッ……九……ちゃ………うッ……」
「気持ちイイ?」
九龍の細い指が皆守の欲望を支配していた。
溢れ始めた液体を指の腹で撫で広げ、先端をゆるゆると刺激する。
「あ……はぁッ……いい……ぜ……んんッ!」
肛門から続く筋をなぞられ、身悶えしたくなるような痺れが背筋を駆け抜けた。
「出していいよ。全部……飲んであげる」
九龍の唇が大きく開き、皆守の欲望を咥え込んだ。
上気した頬をすぼめながら、潤んだ瞳が挑むように皆守を見上げていた。
視線を合わせたままで一旦唇を外し、舌を突き出して先端の白い糸を舐め取って見せてから再び根元近くまで咥え込む。細められた九龍の瞳に、皆守の射精感が一気に高まった。
「くッ……」
堪えきれずに浮き上がった皆守の腰の動きに併せて九龍の頭も上下する。
「んくッ……はッ……は……む……んん……」
「んぁッ……九ちゃ……も……う……うぁッ!」
九龍の口の中で皆守がはじけた。
どくどくと脈打ちながら口内に吐き出される皆守の快感を、九龍はうっとりと喉を鳴らして呑み込んだ。
「あ……九ちゃん……九ちゃんッ!」
股間に屈んでいた九龍を抱き起こした皆守は、その口元に自分の精液が零れているのも構わず、むさぼるように吸い付いた。舌を挿し込み口内を嘗め回しながら、驚き戸惑う九龍の舌先を強引に吸い上げ絡めとる。
「んッんんんんッ!」
息苦しさに音を上げた唇を解放し、首筋にかぶりつく。
汗ばんだ手のひらが全身を撫でまわし、時折尻を鷲掴みにする。
首筋に紅い刻印を残した唇は、こらえきれずに倒れこんだ九龍の胸や腹に次々と新しい刻印を散らしてゆく。
熱に浮かされたような激しい愛撫に九龍の全身が震えた。
「ああああッ! あッ……はッ……やッ! 甲ちゃん! ああッ!!」
根元のリボンはまだ結ばれたままなのである。
「やぁッ! ほどいて! 俺ッ……もう駄目ッ……甲ちゃん!」
「まだだよ、九ちゃん……」
伸し掛かる皆守の下から這い出そうとした九龍の腰がつかまれ、入り口に熱いものが押し当てられた。達したばかりのはずの皆守の雄は早くも再び勃ちあがり、新たな液体を先端に滴らせていた。
「や……め……」
「俺がイッたら……って言ったろ? イクってのは満足したらって事なんだぜ?」
皆守はそのまま九龍の入り口をこじ開け、一気に欲望を衝き立てた。
「うわああああああッ!」
すでに解してあったとはいえ、強引な挿入は苦痛を免れない。
九龍は衝撃に耐え切れずに悲鳴を上げた。
「やだッ! 甲ちゃん痛いッ! 俺、壊れちゃうよぉッ」
「大丈夫だ。ちゃんと根元まで咥えこんでるぜ。ほら!」
皆守は九龍の尻を開くと、さらに奥へと腰を突き入れた。
ズンという衝撃が腹に響き、九龍はそのまま崩れ落ちた。
「う……あ……」
ベッドに突っ伏し尻だけを持ち上げられた格好で、九龍はそれでも必死に深呼吸を繰り返し、皆守の雄に身体を馴染ませようとしていたが、意識が混乱して思うように力を抜く事ができないでいた。
皆守の暴挙の理由が判らない。何故、どうしてと疑問符ばかりが頭に浮かび、解答らしきものはひとつも浮かんでこなかった。
(甲ちゃん……どうして……)
問いかけは言葉にならず、戒めも解かれないまま、皆守の動きが激しくなった。
痛みと堰き止められた快感の息苦しさがごちゃまぜになり意識が遠のいてゆく。
皆守が九龍の中に欲望を注ぎ込み戒めのリボンを解いた時、九龍の意識はすでに無くなっていた。