――“……繋がろうな?”――
コウは“繋がろう”と言ってくれたのだ。
しかも繋げた瞬間には“溶けそう”だと。
コウが自分と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しかった。
「へへっ」
「またそんな顔して……なんなんだよ?」
「だって……」
「ん?」
「俺、今、すっごく幸せ!」
サキは、コウが先ほど思わず見惚れた花開くような笑顔で言った。
「〜〜〜〜〜ッ!」
「コウ?」
「いや……その……まただ」
コウは繋がりを保ったままサキを抱き起こし、座位の姿勢をとった。
コウの肩に手を置きバランスをとるサキを半ば強引に抱きしめる。
「うわっ! ちょっ……」
「すまん!」
サキの首筋に顔を埋め、荒い呼吸を繰り返す。
(コウの顔……真っ赤だっ……た……?)
「もしかして……限界っぽい?」
「そうじゃない……それとは違う。けど……胸が……なんなんだ一体」
(……もしかして)
「ねぇ、コウ。今、どんな気持ち?」
「どんなって……」
「色々あるだろー? 嬉しいとか気持ちイイとかずーっとこのままでいたいとか」
サキは“幸せ”と評した今の自分の気持ちを細かく分けて例として示した。
「あ、ああ…」
「どれ?」
「あ〜〜〜……――――――――――――――――――――――……全部だ」
サキの肩に顎をのせたまま、コウは観念したようにぼそっと呟いた。
「よかった!」
頭を抱きかかえるように頬擦りしてくるサキに、また胸の奥がむずがゆくなる。
「お、おい……あんまり動くなって」
「うん! もうちょっと、二人で“幸せ”噛み締めようねっ!」
「え……?」
「だってコウ、全部って言ったよ? それって“幸せ”って事だもん! 俺と一緒だ!」
「!」
(この感情が……“幸せ”……?)
サキへの想い以外の感情を押し殺して生きてきたコウにとって、幸福感というのは最も縁遠い感情であった。世間一般に言われている“幸せ”の定義になど関心も無かったし、そもそも自分に“幸せ”になる資格があるなどとは思ってもいなかった。
いきなりこれが“幸せ”なのだと指摘されてもぴんとこない。
けれど今感じているこの気持ちは、サキと暮らし始めてから幾度となく感じていた。
時に強く、時に優しく、自分を呼ぶサキの声と満面の笑みに連れられて訪れる感情。
嬉しくて、愛しくて、なのにうっかりすると泣きたくなるような……。
「へへへっ……よかったぁ……」
サキの声のトーンが今にも泣き出しそうなものに変わった。
つられて鼻の奥がじんとする。
この感情を“幸せ”と呼ぶのなら。
「コウ、大好き……」
「“大好き”止まりなのか? 俺は愛してるぞ?」
サキの全身が一瞬硬直したようになり、触れ合う肌が体温の上昇を伝えてきた。
繋がっている部分の締め付けがきつくなり、コウの背筋にも快感が走る。
「……そろそろいくか?」
(お前が俺の……“幸せ”だ。)
サキからは、言葉の代わりに小さな頷きが返ってきた。
繋がりが解けぬよう、ゆっくりと元の体勢に戻る。
顔を見られたくないのか、サキの腕は、コウの首に絡みついたままだった。
感触を確かめるように、先端ぎりぎりまで引き抜いては、根元まで一息に埋め込む。
緩急をつけて繰り返される腰の動きに翻弄され、サキの腕がほどけた。
「顔みせろって」
押し寄せる快感に身をよじりながらも、サキは顔にかざした腕をどけようとはしなかった。
「サキ」
「……って、俺、今、絶対変な顔……して……るっ……から……」
駄々をこねる子供のようにいやいやをするサキに、コウは一計を案じた。
腰を支えているだけだった手をサキの股間に伸ばし、放置されていたペニスを握る。
いつものように愛撫を始めた手をサキの手が阻む。
「やッ! 嫌だ! 先に達かせないで! ……あ!」
「どこが変なんだ?」
再び顔を隠そうとするサキの手をコウの言葉が思いとどまらせた。
「お前の顔見ながら達きたいんだよ」
言葉を失くしたサキの顔が耳の先まで真っ赤になった。
「―――……ばか……」
おとなしくなったサキに気を良くしたのか、コウの動きが激しくなった。
「ずっ……ずるいよ、コウ! こんな……のッ……はぅ!」
「お前だって……こんなにッ……ん……絡んで……はあ」
「あぅ! やッあ……そこ、ばっかり……あッ、あッ、ああんッ!」
「いい……締め具合だ……」
「だめぇ……っ……俺、俺、もう……っちゃう!」
サキの声に応えるようにいっそう深く身体が折りたたまれ、コウの顔が間近にせまる。
「サキ」
蕩けるような甘い声で名を呼ばれ、サキは夢中でしがみついた。
「コウ、コウッ! 一緒がいい! 一緒がいいよぉッ!」
「こんなにひとつなんだ。当たり前だろう?」
「……コウッ!」
絶頂へのカウントダウンが始まる。
ひと衝きごとに高まる期待と深まる快感。
互いの名を呼ぶ声と荒い息遣いが、共に昇りつめていることを実感させた。
触れ合う肌が溶けて混じり合うような感覚。
やがて最も溶け合っている部分から、痺れるような快感が、荒波のように押し寄せてきた。
「あ! ああ! ああああ〜ッ!!」
「―――ッんんッ!!」
世界が白く爆ぜる。
いつもならひとり堕ちてゆくサキの意識を、繋ぎとめる温もりがあった。
(コウ……抱きしめてくれてる?)
「んっ!」
繋がりを解かれる感触に意識が鮮明になってゆく。
身体が伸ばされ、呼吸が楽になった。
「はふぅ〜〜〜っ!」
「……お前、その溜息はないだろうが」
「へ?」
真横で聞こえた呆れ声に顔を向ければ、コウの笑顔とぶつかりそうになった。
「腹いっぱいメシ喰った時と一緒だぞ、それじゃ」
「え〜〜? あ、でもお腹一杯でシアワセってのは一緒かも」
「おい」
「へへっ」
サキの満面の笑みを見ても、コウは今度は動じなかった。
「ったく――……ん」
「!」
半身を起こし唇を塞ぐ。
余裕たっぷりのキスは、サキの思考を停止させるのに充分な威力があった。
「ごち」
「え? え?」
「デザートだ、デザート」
満面の笑みに心奪われたのは、今度はサキの方だった。
END
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