「痛った――いッ!」
「我慢しろ。すぐ解れるから」
「んんんッ! ッ! アッ そこッ……ひぁああああッ!!!」
サキの肩がびくびくと震え、その手が縋るようにシーツを掴む。
「んッ! 駄目ッ! そんなに強くしたら……あっあっあううっ!」
うつ伏せに横たわる白い背中が苦痛から逃れようとずり上がる。
「逃げたら終わらんぞ?」
「うっ……」
コウの大きな手がサキの腰を掴み、元の場所へと引きずり戻す。
「お願い、もうちょっと優しく……」
「知るか! こんなにガチガチになっちまって、すぐには戻らんぞ?」
サキの懇願も虚しく、コウはその手をサキの両肩にかけた。
「ひーん」
「ったく……なにをどうしたら、こんなに肩だの背中だのが凝るんだ?」
ぐいぐいと首筋から両肩の筋を順に揉み解すが、ごりごりに凝り固まった筋肉は、普段のしなやかさとは程遠い感触であった。
「……ちょっと……おもしろそうな本を見つけて……」
「読み耽っててこうなったのか? 中身を試してこうなったのか?」
「……ど、どっちもだったり……」
「おーまーえーはーっっ!」
一体何の本を読んでいたのか。
コウはさすがに書庫の中身を点検する必要を感じた。
「痛い! 痛いってばっ! んあッ!」
「妙な声を出すなっ!」
「い、今のトコもう少し……」
「ここか?」
「あっ! そう、そこ! ん……あ……はああああああ〜〜」
丹念に揉み解したおかげで、ようやくまともに血液が循環しだしたらしい。
コウは指圧をやめ、掌全体でゆっくりと、サキの背中を押し始めた。
痛みに身構えていた身体から余計な緊張が抜けると、魔族本来の回復力で、サキの筋肉は瞬く間にいつもの状態に戻っていった。
安堵の表情を浮かべるサキの横顔に、思わず苦笑が漏れる。
夕食の後、ふらりと隣の書庫部屋へ出向いたかと思ったら、夜半過ぎまで戻ってこなかった。
眠い目をこすりつつ、サキがベッドへやってくるのを待っていたコウであったが、結局サキはそのまま自分の部屋へと篭ってしまい、朝を迎えた。
うっとりと目を閉じ、されるがままになっているサキは、昨夜の寝不足もあってか、そのまま眠りについてしまいそうな顔をしていた。
「だいたい魔族のクセに筋肉痛なんざ、有りえないだろうが」
「そんなこと言われたって……んっ」
「ヨガの本でも試したのか?」
「んー……近いかも。……あてててて」
中途半端に内容をはぐらかすサキの言葉にコウは興味を示した。
「やってみろよ」
「え!?」
「みょうちきりんなポーズを試してこうなったんだろ? どんなだ?」
「……やるの? 今、ここで?」
「床の方がいいのか?」
「どっちでも……」
「Gパンじゃ厳しいだろ? 脱いでやれよ。見ててやるから」
「……笑わない?」
「多分な」
そう言いつつも、コウの口元はすでに緩み始めていた。
これほど躊躇うのならば、相当にアクロバティックで恥ずかしいポーズなのだろう。コウはサキに、全裸での披露を希望した。
「うん。服着てたらできないから、やるなら脱ぐけど……」
「……は?」
変態だのスケベだのと非難の声が上がるかと思いきや、サキは当たり前のように下着まであっさりと脱ぎ捨てた。
(脱がないとできない、ヨガみてぇなポーズ……って、まさか……)
数年前の風俗雑誌の特集記事。
読者が自分の自慰行為を披露するという、馬鹿げた企画が載っていた。
エネマグラを使用してドライオーガズムを堪能する者、電動バイブやオナホールのような器具を用いて手軽に楽しんでいる者、こんにゃくや極太のソーセージといった古典的かつ、リサイクル精神に富んだ手法を好む者など、そのバリエーションは多岐に渡っていた。
その中で、ひときわ異彩を放っていたツワモノの写真が記憶の底から蘇る。
「……ん しょっ!」
仰向けに寝そべったサキの両脚が天井に向けて勢い良くあがり、そのまま腰までを高く掲げ、両手で、持ち上がった背中を支える。
このまま自転車を漕ぐように両脚を動かすのなら、読んでいたのはダイエットの本だろう。
だが――
「よっ……と……」
高く伸びた脚は左右に広がり、身体を折りたたむようにサキの頭の両側に下りてきた。脚が下りれば、腰が上がる。
腰と脚の間には当然ながら尻がある。
コウは、サキのつむじと尻の穴を同時に見せられ、深い溜息をついた。
(やっぱりこれかよ……)
「ん……っと……あれ?……」
腰を支えていたサキの手は、今や尻にまわり、抱え込むようにしている。
鷲掴みにされた尻の肉は当然ながら左右に引っ張られ、その入り口はますます露わになってゆく。
自分の姿がコウの目にどのように見えているかなどお構い無しに、サキの視線は自分のペニスの先端に集中していた。
パン食い競争よろしく、その先端を咥え込もうとやっきになっている。
コウの記憶に残る、自分で自分のペニスをしゃぶるツワモノの写真。
あまりに馬鹿げたその行動に、記事を目にした瞬間雑誌を閉じた。
それと同じ構図が、今、目の前で繰り広げられていた。
「お前……時々、本気で馬鹿だよな……」
ぱっくりと入り口を広げ、目の前で上下する白い尻を眺めながら、コウはぼそりと呟いた。
このままサキが諦めて身体を伸ばすのを待っていても良かったが、それではあまりに間抜けすぎるし、なにより面白くない。
コウは手早くシャツを脱ぎ捨て、ズボンのベルトに手を掛けた。
ベルトの金具の外れる音にサキが気付いた時には、見上げる先にコウのペニスが揺れていた。
「……え?」
抱えていた手が緩み、元に戻ろうとした尻を再び掴んだのは、コウの両手であった。
生暖かい、ぬめった感触がサキの尻の穴を塞ぎ、ぐにぐにと動き回る。
「ッ! ひゃぁっ!?」
びくんと跳ねようとする尻を上から押さえつけ、コウはサキの尻の穴を舐め回していた。
「勃たなきゃ、咥えられんだろ? お前のサイズじゃ?」
「だ、だからっていきなりソコ!?」
「暇そうにぱくぱく欠伸してたからな」
「違ッ!」
「俺にはそう見えたんだ。いいからお前は自分のしゃぶれよ。
一人じゃ無理だったんだろ、どうせ?」
「ひどっ……ッ! ……んぁ……や、め……あッ」
コウの舌先がぐるりと円を描き、穴の中心をつつくように動き始めた。
「んぁ……コ、ウッ! も……やだ……そこ、ばっかり……」
「いい具合になったじゃないか。これなら先っぽくらいはいけんだろ」
サキの股ぐらを覗き込み、ペニスを掴んでサキの口元に押し当てる。
「んんっ!」
「しゃぶれよ、ほら」
「っぷ! っは、んむっ……」
ぐいと尻を押し下げ、サキの身体をさらに折りたたむ。
「くる……ひ……」
「ぐだぐだ言わずに舐めろ」
「……!」
(コウ、もしかして……怒ってる???)
そろりと視線を、頭上のコウのペニスに向ける。
コウのペニスは、サキの痴態に、なんの関心も示してはいなかった。
(うわああああ、やっぱり怒ってるっ!)
「ばっ! 急に動くなっ!」
「いッ!?」
意思の疎通を図るべく、顔をあげようとしたその時、肩甲骨の内側に、ぴしりと鋭い痛みが走った。
「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
「……つったな」
盛大な溜息と共に、コウの腕がサキを抱きかかえた。
脚の間に背を向けて座らせ、掌で丹念に肩甲骨の周囲を押し伸ばす。
「お前、ほんっとに馬鹿過ぎ」
「う……」
「自分でやるなら、他にも方法はあるだろうに……」
「……って……」
サキはどういうわけか、自慰が下手だった。
自ら快感を得ようとするのがタブーだと言わんばかりに。
それが「礎」として生まれた性だと言うのなら、なんと残酷なことか。
「発情期……か?」
「ん……そろそろ、きそうな感じだから……」
「気にしすぎだ、ばーか」
「だって!」
「ほれ、腕上げろ、伸ばすぞ」
「あ、うん……んーっ……」
「よし、終了!」
「ありがと……え?」
尻に当たるコウのペニスの感触が変わっていた。
「どうした?」
「や……えと……コウ?」
「なんだ?」
声音まで、低く、囁くように変化した。
「自分でイけないなら、俺を使え」
コウの手がサキのペニスを握りこむ。
「……あッ……」
「どうして欲しい? お前の言うとおりにしてやるよ」
ここから先は別のマッサージの時間ということらしい。
ペニスを握りこんだ右手はそのままで、左手がするりとわき腹から腰へのラインを撫で下ろす。
「んっ」
肌に触れる掌の感触がまるで違っていた。
尻に押し付けられたペニスも、先ほどの無関心振りが嘘のように熱を持ち、徐々に硬度が増してくるのが判る。
「サキ?」
笑みを含んだ声は、本気でサキの指示待ちをしているわけではない。
サキに言われるまでも無く、コウの手は、サキの身体を知り尽くしているのだから。
「……知ってる……くせ、にっ……もうっ!」
観念したようにコウの胸に身体を預けたサキの顎をコウの左手がすくう。
厚みのある唇がサキの口を覆い吸い上げる。
サキの唇が誘うように薄く開き、コウの舌がゆっくりと入り込む。
「っふ……ん……」
互いの舌が絡み合い、サキの吐息に甘い響きが混じる頃、コウの右手がゆるやかに上下に動き始めた。
END
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