BloodyDollシリーズ

  恋昇り  

 病室のベッドの上で、天使が俺にまたがっていた。俺のペニスを半ば強引に自分のアナルに迎え入れ、痛みに身動きがとれなくなっている。

 天使の瞳からこぼれた涙が、俺の腹を濡らす。
 自分を痛めつけなければ泣くことも出来なかったらしい。

 年が変わろうとしていた。

 左手の先が無く、右手は未だギプスで固められたままの状態では愛撫らしい愛撫などしてやれない。それでもと望むなら、自分で何とかしろと俺は言った。

 バイブの代わりはしてやるから、と。

 やさしく慰めてもらいたいなら女の胸にすがればいいだけのことだ。
 同情などされたくないから、俺なのだと思っていた。

「一回抜けよ。ろくに準備もせずに突っ込めばどうなるかぐらい判ってるだろうに」
「う…るさい…くっ……」
「俺のを再起不能にする気なのか? いいから腰上げろ。入り口を解すぐらいはしてやるから」
「……」

 握り締めた拳が震えていた。
 快感など得られるはずも無い。

 泣き顔を見られまいとうつむく奴に呼応するように、奴のペニスも萎えてうつむいたままだ。

 俺は内心で舌打ちしながら腹筋だけで起き上がり、そのまま奴を押し倒して強引に自分のモノを引き抜いた。

「うがっ! …て…めぇ…」

 突き出された拳を避けてのしかかる。身長は大差ないがウエイトでは俺の方が勝っている。肉饅頭のような左手の切り口を頬に押し当てると、その感触に驚いたのか動きが止まった。

 坂井は、まるで鋭利な刃物を突きつけられたような顔をして俺を見つめていた。

「なけよ、天使」
「なっ……んぐっ……」

 俺は坂井の唇をふさぐとそのまま舌を挿しいれて口内をかきまわした。同時にかろうじて自由になる右手の指先で乳首をこね回し、噛み付こうとする意思を逸らす。

 うな垂れていた坂井の下半身が反応しはじめた。唇を塞いだまま、俺は自分のペニスを奴のそれに擦りつけ熱を伝える。身をよじり逃れようとする坂井の姿が、抑えていた暗い欲望に火をつけた。

「犯されたかったんだろう、俺に。……望み通りにしてやるよ」

 最初は坂井の気の済むようにさせてやるつもりだった。
 自分はどうでも、奴が果てればそれでいいと思っていた。

 俺の、天使。



 俺は生き残った。
 俺を担ぎ上げ、こっちの世界に引き戻したのはお前だ。
 あの時からお前は、俺の、俺だけの天使だ。

 お前を組み敷いて犯すのは俺だけだ。
 他の誰にも渡さない。傷付けさせない。
 お前に楔を打ち込む最後の男になってやる。


「この指じゃ奥までは解せないからな。あとは俺のでゆっくり広げてやるよ」

 先走りの液を塗りつけるようにペニスを押し当て、円を描きながら少しずつ挿入していく。一旦は途中まで咥えていたせいで、入り口にぬめりさえあれば抵抗はさほどない。

 それだけ『誰か』に馴らされていた身体だという事だった。
 その『誰か』がどんな奴だったかなど俺には関係なかった。

 張り合う気などなかった。
 どうせもう、この世にはいない存在なのだ。
 勝ち目があるとも思ってはいない。
 俺がこいつを残して逝く時に、肩を並べられる存在になれればそれでいい。

「ちんたら擦ってんじゃねぇ。さっさと突っ込め」

 坂井が挑むような視線を俺に向けた。
 犯されるのではない。自分が抱けと命じたのだとでも言いたいのだろう。
 根元まで咥え込んでから一気に締め上げてきた。

「いい、具合じゃないか。堕天使の素質も充分だな」
「喋ってないと保たないのか? 口ほどにも無い奴だな」
「お喋りな男が好きなんだろう? 今夜だけのサービスだ」

 坂井の瞳が揺らいだように見えた。
 締め付けが緩む。俺が腰を突き上げる番だった。

「お前は、俺の、天使だ」

 宣言すると同時にピストンを開始する。右手の指で奴のむき出しの亀頭を擦ればへらず口も叩けなくなる。

 互いの身の内に潜んでいたケダモノが目を覚ます。決して飼いならされる事の無い2匹のケダモノが、快楽の頂きだけを目指して駆け昇っていった。








                                   END

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