BloodyDollシリーズ

Last scene



不用意に漏らしてしまった私の一言が、叶の「本気」に火をつけてしまったらしい。

二度三度と煽られるように達かされた私は、このまま人生の幕が下りてしまうのかと思うほどに激しく責めたてられたのであった。
意識が遠くなりかけた私に気付いたのか、叶はようやく動くのをやめると、深呼吸を繰り返す私に声を掛けてきた。

「大丈夫か、キドニー?」

言葉だけは私を気遣っているようだったが、そんな響きは微塵も感じられなかった。
瞳の奥に浮かぶ満足気な笑みは、どう見ても私の反応を愉しんでいるとしか思えなかった。

「さんざん好き勝手に弄くり回しておいて、大丈夫な訳がないだろうがっ!
 お前のような奴を色欲魔人と呼ぶんだ、馬鹿者っ!!」

繋がりが解かれた後も、私は身動きがとれなかった。
本気で私に惚れているというのなら、もう少し丁寧に扱ってくれてもよさそうなものだ。
それとも本気だからこそ、こういう扱いなのだろうか。

「何か飲むか?」
「あのふざけた名前のカクテルならいらん」
「気に入っていたように見えたけどな。俺のキスを思い出していたんじゃないのか?」

叶はどうしようもないほど上機嫌だった。
思惑通りに事が運んだと思っているのだろう。人の気も知らずに一人で舞い上がっていた。

脱ぎ捨ててあったシャツのポケットから取り出したシガリロに火をつけ、心地良さそうに煙を吐き出している。
妙にスッキリしているように見える横顔が腹立たしい。

「よくそこまで自惚れられるもんだな」
「おやおや。女王陛下は御機嫌斜めでいらっしゃる。あの程度の奉仕では、忠誠心が足りませんでしたか?」
「いい加減にしろよ、叶。そんなにナイトがやりたければ、俺に関わる荒事は
片っ端からお前に押し付けてやるからな」
「おおせのままに」

いくら声を荒げてみたところで、全裸のままで起き上がることも出来ない状態では、私の言葉など負け惜しみにしか聞こえないであろう。
にもかかわらず、憎らしいことに叶はそれをうやうやしく受け止めて見せた。
私はなんとか腕を持ち上げ、隣でだらしなく寝そべっている叶の口からシガリロを奪い取った。

「報酬はきちんと支払う」

冗談めかして話してはいるが、叶は正式な依頼として引き受けるつもりらしかった。
だとすれば、本気で身体を張る気のはずだ。私は命の借りなどつくる気はなかった。

「基本報酬はもう、領収済みだ。あとは経費をその都度請求させてもらう」
「基本報酬だと? 何のことだ?」

叶の手が私の手からシガリロを取り返し、灰皿に押し付けて消した。
その手が私の顎にかかる。

いやな予感がした。

「俺への基本報酬は、自由立ち入り権さ、キドニー」
「あの土地のか?」
「そっちは次回の報酬ってことにしておこう。受け取ったのは、宇野雄一郎自身への自由立ち入り権。妥当な案だと思わないか。キドニー?」

顎にかかっていた手が首筋を辿り胸元へ下りてくる。

「ちょっと待て! 俺はそんな権利認めないからな。その手をどけろ。まだ続ける気なのか、お前は!」
「獲得した権利は最大限に利用させてもらう。」

叶の手がおとなしく止まるまるはずもなかった。
ここで拒まなければこのふざけた権利を認めた事になってしまう。
だが、今の私には奴の手を振り払う気力も体力も残ってはいなかった。

火照りの残る身体が覆いかぶさってきた。首筋を舌が這う。


「馬鹿野郎っっ!!」

今度こそ私は、心底本気でこの男を罵った。



END

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