九龍妖魔學園紀シリーズ
禊
早朝の弓道場で、九龍は探索の装備一式を放り出したまま眠り込んでいた。
更衣室から出てきた神鳳は口元にふっと薄い笑みを浮かべると、毛布の端からのぞく裸の肩に軽く手を添え気を込めた。
「龍さん。そろそろ早朝練習の生徒たちがやってくる時間です」
なんの前触れも無く、唐突に、九龍の目がぱっちりと開く。
目覚めると同時に、九龍はがば! と起き上がり、辺りを見回した。
「え? 何? 俺ってば、あのままここで寝ちゃってたの?」
「……話は服を着てからにしませんか? この時間にその姿は、僕には刺激が強すぎます」
そう言いながらかすかに眉間にシワを寄せ、小首を傾げる神鳳に動揺は見られない。
「昨夜は随分と淫らな気を取り込んできていたようですね」
全裸のままで胡坐をかいて座る九龍に学生服の上着を着せ掛けてやりながら、神鳳が告げる。
昨夜の九龍は盛りのついたケダモノのような勢いで、見回りを終えて寮に帰る途中の神鳳を弓道場に連れ込み、抱いてくれとせがんだのであった。
「ごめん。無茶したよね」
「いいえ。なかなか愉しめましたよ?」
九龍の全身をちらりと眺め、にっこりと微笑むその表情には余裕すら感じられた。
「失神した……ってわけじゃないよね? 毛布なんか持ってくるより、起こしてくれれば良かったのに。俺がココで寝てたんじゃ、部屋にも戻れなかったんだろ?」
「ここで僕と一緒に休んだ方が龍さんの”気”も鎮まるだろうと思えたもので」
神鳳が畳んでおいてくれた下着と制服のズボンをもそもそと身につけながら話す九龍に、神鳳の笑みが深くなった。
「え?」
「丁度、お祓いをしたばかりだったんですよ」
荒吐神と名乗る凶悪な思念が『鍵』とやらを捜し求めて弓道場を荒らしたのは、つい先日の事であった。
「俺、そういうのって結構大丈夫な方だと思ってたんだけどなぁ」
「迷いや不安は、良くないモノを呼び寄せます。心当たりがあるんじゃないですか?」
「う……わ……。もしかして、ばればれ?」
「名前、呼んでましたよ」
「げ! それってサイテーじゃん……」
自分が何をしたかは覚えていても、その最中にどんな有様だったかなどは覚えていないらしい。
神鳳は、九龍に何故自分の所に来たのかなどとは訊かなかった。
形はどうあれ、自分の力が九龍にとって必要だったから呼ばれたのだろう。
まさか協力を申し出たその日の夜にこうなるとは思ってもみなかったが…。
―――――解ってるからっ! そんなの構わないからっっ―――――
生徒会役員の一端を担う自分だからこそ、九龍の叫びの意味が理解できた。
自分が九龍に斃された今、残りの生徒会役員は副会長補佐の夷澤、会長の阿門、そして……
誰よりも近くに存在し、誰よりも想いを伝えたい相手。
身体だけでなく、心も繋げたいと願う相手の真実を、九龍はうすうす感付いているのであろう。そしておそらくは、その相手も九龍が気付き始めていると承知で、変わらない日常を望みながらも九龍と行動を共にしている。
「忘れ物はありませんか?」
「あ、うん。……ありがとう……な」
互いに想い合いながら噛み合わない願いが、九龍の心に隙を生んだ。
ささいな邪気など寄せ付けないはずの心の光を薄れさせた。
九龍の精神にとり憑こうとした邪気は、神鳳の持つ破邪の力を体内に取り込むことで浄化された。
多くを語らず礼だけを述べ出て行こうとする九龍の背中に神鳳はそっと呟いた。
「また、会いにきてくれるのを待ってますから」
細められた目の奥で、その瞳がきらりと光っていたことに、九龍はついに気付かなかった。
END
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書き始める前に、日付確認しとくんだったっ…!
神鳳以降のシナリオのタイムスケジュールって毎日が決戦じゃないかぁ〜〜〜っっ><
おかげでバディにしたその日の夜ってことになってしまいました。あうううう。
好感度最高値でセリフ書いちゃったけど、それくらいはいいよね? ね?
神鳳さんはぜひとも黒系で(笑)
物分りのいいセフレの振りしつつがっつり九龍を狙ってたりするといいな。
でないと九龍がただのスキモノの最低男になってしまう(え? もうなってる?)