かちり
ふわり
小さな金属音のあとにラベンダーの香りが漂う。
「よう。起きたか」
アロマパイプを咥えた皆守が少々気まずそうな顔で九龍を見下ろしていた。
「え、俺、もしかして飛んでた?」
「どっちかってーと、陥ちてたと言うべきだな」
「そんなに?」
「このまま寝ちまおうかと思ってたトコだ」
「うっわ……甲ちゃんてば、ご立腹?」
九龍は仰向けに寝転んだままで大きく伸びをすると、腹筋だけで起き上がり、皆守に向き直った。
そのまましなだれるように寄りかかり、皆守の口からアロマパイプを取り上げる。
至近距離でかち合う視線を逸らしたのは皆守だった。
「そうじゃなくてだな。……悪かったよ」
「なにが?」
「何って……そりゃ……」
「蝶々結びとか蝶々結びとか蝶々結びとか?」
口ごもる皆守の懐にするりと潜り込んだ九龍は、耳元でわざとらしく連呼した。
軽い舌打ちで答えた皆守は、わかってるなら聞くなと言いつつ、それでも小さくごめんなと呟いた。
「謝らなくっていいのに。甲ちゃんの誕生日なんだからさー、甲ちゃんが楽しけりゃOKでしょ?」
「そういうのは嫌なんだよ、俺は。一方的にってのはあんまり……」
「楽しむなら一緒がいい?」
皆守の首に九龍の両腕が絡みつき、黒い瞳が誘うように皆守の瞳を覗き込んできた。
「まぁ……な」
皆守は今度は視線を外さなかった。
薄目を開けたままで九龍の唇をそっと舌先で舐める。
皆守の瞳に欲情の色を感じた九龍は、そのまま唇を開き、皆守の舌先を招き入れた。
皆守の骨ばった長い指が、九龍の肌を撫でる。
一度は引いたと思った熱が、あっさりと倍返しの勢いで戻ってきた。
腰から崩れそうになる九龍を膝で立たせたまま、皆守は胸の突起を、ヘソの窪みを、たっぷりと唾液を含んだ舌で蹂躙していった。
同時に両手で九龍の尻を割り開く。先程皆守が注ぎ込んだ精液が、腿の内側を伝い落ちてきた。
「クリーム足さなくてもいけそうだな。ん?」
「聞くなよ馬鹿ッ。いいからさっさと挿れろッて!」
「んじゃ遠慮なく。つかまれよ、持ち上げんぞ?」
「うわ……ちょッ……ンッ!」
大きく開いた九龍の尻を、自分の屹立したペニスの上に掲げ、狙いを定めてじわじわと下ろす。
重力の法則にのっとった結合は、一息に一番奥の敏感な部分にまで到達した。
向かい合わせの座位で身体を繋げた二人の腹の間で揺れる九龍のペニスを、皆守の手が握りこむ。
九龍の背がびくんと仰け反った。しがみつく指先に力が篭る。
何本かの爪が、皆守の肩に食い込んだ。
「先にイクか?」
「嫌ッ!一緒がいいッ!」
前を握られた九龍が、皆守を咥え込んだ後ろをぎゅっと締め上げた。
これには、皆守の方がたまらず低い呻き声を上げた。
「ッ!こ……ら。締め、すぎだ……って」
「甲ちゃ……が、前っ……いじるからッ!……ぁんッ!」
応じる九龍の声に甘い響きが混じる。
もう、言葉は必要なかった。
中に挿し込んだままで、皆守は九龍の身体をそっと仰向けに寝かせた。
汗ばんだ額、潤んだ瞳、上気した頬。
緩く開けられた唇は、何度も皆守の名を形作っていた。
込み上げる快感を呑み込むように上下する白い喉。
何度も嬲られぷっちりと盛り上がった二つの胸の突起は赤く震え、両脇に軽く落とされた腕はシーツを弄るように泳いでいた。
繁みを押しのけ屹立したペニスの先端はしとどに濡れそぼり、滴が糸をひいてヘソの窪みへと流れる。
いっぱいまで広げられた秘孔は、その内に皆守の張りつめた欲望を捕らえ、九龍の呼吸に合わせて解放への誘惑を皆守に伝えていた。
九龍の姿態を、頭の先から結合部分までひとコマで視界に納めた皆守は、その眺めの淫猥さに身震いした。これを秘宝と呼ばずに何と呼べというのか。
皆守は、鍵穴に挿した鍵を回すように、ゆっくりと腰を使い始めた。
九龍の白い身体が上下に揺すられ、甘い声がもっととねだる。
充分に解れ皆守のモノに馴染んだ九龍の内壁は、皆守の欲望に絡みつき、蠢き、締め上げた。
皆守の腰の動きが徐々に激しさを増し、パンパンと肉のぶつかる音があたりに響く。
「…ッ…ア…んッ…はっ…はっ…はぁあッ…ンッ…甲ちゃ…も…イク…」
「い……いぜ…九…ちゃん。俺も…もう……もたな…ッ…くッ…いくぞッ!」
九龍の腰を抱えなおした皆守が2度3度と深く衝き入れ最奥を揺さぶる。
「くぅッ!!」
九龍の奥で皆守がはじけた。
「アッ……アア~~ッ!!」
皆守の熱を受けた九龍も、ほとんど同時に白い飛沫を飛ばして果てた。
九龍の締め付けが落ち着くのを待って自分のモノを引き抜いた皆守は、満足気な溜息をついて横たわる九龍の腹をティッシュで拭ってやった。
「自分でやるのに」
そう言いつつも、九龍は皆守にされるがままで、くすぐったそうに笑うだけであった。
「一息ついたら風呂場まで運んでやるから。……あんまり動くと中、出るぞ」
寝返りを打って起き上がろうとする九龍を見かねて皆守が忠告したのだが、遅かったようだ。
ベッドから片足を下ろしたところで、九龍の動きがぴたりと止まった。
「ッ……うわぁ!……きッ……きもち悪ッ!」
肛門から液体の漏れ出るとろりとした感触に、悪寒が走った。
「な、なんで?2回しかしてないのに……」
「悪ぃ。失神してる間に1回出してる」
「はい?」
「や、突いてるうちに起きるだろうと思ってだな……」
「……さっきのごめんって……コレのことだったのかな?」
「そうとも言うな」
しれっとした顔でとぼける皆守に九龍は返すべき言葉が見つからなかった。
身動きがとれずに救いを求めると、お姫様よろしく抱き上げられた。
ちゃんと洗ってやるからと笑って言われて、ようやく気付いた。
どうやら皆守は、九龍にあれこれ奉仕されるよりも、自分が九龍にあれこれするのが嬉しいらしい。
九龍が異議さえ唱えなければ、きっと1日中、九龍の世話を焼きまくるのだろう。
「もう、甲ちゃんってば……」
「なんだよ」
「大好きv」
「……知ってるよ」
「あとでちゃんとお祝いしようね!」
「目が覚めて日付が変わってなかったらな」
HAPPY BIRTHDAY TO YOU
HAPPY BIRTHDAY DEAR KOUTAROU
HAPPY BIRTHDAY TO YOU
END